絶唱

絶唱

昭和十八年――太平洋戦争も真っ只中の頃である。 園田家といえば、山陰のこの地方では旧家であり、いまなお多くの山林や土地を所有する大地主として、その権勢をほしいままにしていた。順吉は、そこの一人息子だった。 長じて、京都の大学に学んだ順吉は、ある日のこと、突然、父の惣兵衛から故郷へ呼び戻された。町の実業家・橋本平吉郎の令嬢・美保子と結婚しろ、というのだった。 順吉には意中のひとがいた。彼女は園田家の山番をしている正造・サト夫妻の娘・小雪で、園田家の女中として働いていた。順吉と小雪の仲を感じ取っていた父の惣兵衛が、二人の仲をひきさくと同時に政略結婚を強いたのである。