歌詞

療養所

小比類巻かほる

作詞
さだまさし
作曲
さだまさし

病室を出てゆくというのに

こんなに心が重いとは思わなかった

きっとそれは

雑居病棟のベージュの壁の隅に居た

あのおばあさんが気がかりなせい


たった今飲んだ薬の数さえ

すぐに忘れてしまう彼女は しかし

夜中に僕の毛布をなおす事だけは

必ず忘れないでくれた


歳と共に誰もが子供に帰ってゆくと

人は云うけれどそれは多分嘘だ

思い通りにとべない心と動かぬ手足

抱きしめて燃え残る夢達


さまざまな人生を抱いた療養所は

やわらかな陽溜りと かなしい静けさの中


病室での話題と云えば

自分の病気の重さと人生の重さ それから

とるに足らない噂話をあの人は

いつも黙って笑顔で聴くばかり


ふた月もの長い間に

彼女を訪れる人が誰もなかった それは事実

けれど人を憐れみや同情で

語れば それは嘘になる


まぎれもなく人生そのものが病室で

僕より先にきっと彼女は出てゆく

幸せ 不幸せ それは別にしても

真実は冷やかに過ぎてゆく


さまざまな人生を抱いた療養所は

やわらかな陽溜りと かなしい静けさの中


たったひとつ僕にも出来る

ほんのささやかな真実がある それは

わずか一人だが 彼女への見舞客に

来週からなれること

提供: うたまっぷ